パリ徒然草

パリでの暮らし、日本のニュース、時々旅行、アート好き

通常通りじゃない。試着禁止、歩くと緊張する通り...

 郊外に住む知らない人と話していて、パリは、もう通常通りでしょう?と尋ねられた。そうですね、そういう答えを求められている気がして相槌を打った後、考えた。

 パリの通りを歩けば、レストランのテラス席が以前以上に歩道を占拠しているように感じるくらいで、観光客が少ないせいで人通りが減ったと感じるくらいで、以前と同じと思う人もいるかもしれない。

 でも、よく見ると違うこともある。

 レストランやカフェ、お弁当屋さんで閉めたままの店もある。靴販売のチェーン店Andreは閉まっていた。

 婦人服のブティックに行くと、試着ができなかった。私が知る限り、ZARA、MANGO、Camaieu、NAFNAFでは、試着ができなかった。多くの店は一ヶ月まで交換できる。そして多くの店が30%OFFなどのスポットセールをしていたりする。

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【試着室の前に服が置いてあったり、テープで通れないようにしてあったりして、試着できない店が多い】

 試着ができないということは、どれだけ服を買う楽しみを奪ってしまうことだろう。観光客が少ないだけでもパリのブティックには痛手だ。以前にも書いたが、CamaieuやNAFNAFなどの服飾業界は経営が厳しいと新聞などで報道されている。

 焼け石に水程度の私の消費でも、買って応援したい。コンフィヌモンもやっと終わったのだし、何より自分が好きな服、新しい春や夏の服で、良い気分でいたい。

 これから経済的に大変になりそうだ、質素な生活に変えよう、という風潮の方が経済危機や恐慌を加速しそうで怖い。でも、パンツやワンピースを試着しないで買うのは怖いなあ。

 通常通りって何だろう。レストランの室内が使えず、休館日でもないのにルーヴル美術館オルセー美術館もオープンしてなくて、通常通りには思えない。

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【雨の日曜日。ルーヴル美術館が閉まっているのは残念】


 人は何も変わらない方が好ましいと思っているのだ。自分の回りが変わっていなければ、それで安心したい。まだまだ、続いてますよ、いや、これから経済的な意味で、もっと大変になるかもです、そんな不安にさせるようなこと見ず知らずの人に言う必要ないな、と思って言葉を飲み込んだ。

 郊外に住む友達は、コンフィヌモン(外出制限令)中はゆっくりできて良かった、パリが大変だったのは、都市という不自然な構造だからよ、と言った。でも、大変だったのは、都市だけでなく、アルザス地方の小さな町も同じだろうと思う。COVID19の感染者が多ければ、ひっきりなしの救急車のサイレンが緊張感を高める。清掃員もCOVID19になり、街は清掃されない。私の想像だが、小さな町ほど知り合いの○○さんが…という話を耳にして心配になっただろう。

 郊外からパリまで一時間以上かけて通勤してストライキに巻き込まれたり電車が遅れたりで、1日の4時間くらいを通勤に費やすような暮らしの方が私には不自然に見えていたのだが、公園を奪われてみると、公園はみんなのものじゃない、国や市のものなんだ、いつだって、権力で使えないようにできるんだ、地球上の人間全員が自分で庭を持て、と言われている気がした。

 確かに庭の広い人や大きな家に住んでいた人は影響は少ないだろう。国際ジャーナリストの田中宇氏も「都市閉鎖による経済停止は失業を急増させ、貧乏人ほどひどい目に遭う。金持ちは大して困らないが、貧困層はとても窮乏させられる」と書いている。

 大きな庭のあるベルサイユ宮殿に住んで、パリの貧しい人の気持ちが分からなかったマリーアントワネットを思い出した。自分の庭だけ見ていれば、外の変化に気づかない。
 
 コンフィヌモン後、酷くなった通りがある。もともと路上にたくさんの人がいて、服などを売り買いしていたのだが、今は、売り買いもしていないのに、たくさんの人が通りにいて路上で大声で話をしている。10日くらい前に通った時、警察官たちとその人たちの間で緊張が高まっていた。

 その近くで「麻薬を販売してない」と警察官に話すのを聞いたこともある。警察官も必ず5,6人以上の集団で徒党を組むようにそこを歩いていた。警察官でも集団で歩いている通りを私は1人で歩く。銃も持たず。

 時間帯によっては、そういう雰囲気の場所があり、コンフィヌモン後2度ほど通ったが、ツバは飛んでくるし、人にぶつかるし、自転車の人に怒鳴られるし、で私は以前よりずっと真剣に、いかにしてその道を通らないようにするか、考えながら暮らしている。5日ほど前、夜に通った時は、もう人はいないのだが、たくさんのゴミが舞っていた。

 だから私が気にしないといけないのは、
そういう道を通るのを避ける、
要所要所でマスクをする、
6時30 分から9時30分と16 時から19 時は公共交通機関(RATP)に乗らないよう計画を立てて生活する、
家に帰ったらすぐ手洗い、野菜や果物も石鹸で洗い、布マスクも毎日、60度のお湯に30分漬けた後石鹸で手洗い...、
それに、あれも、これも...と、
それでも、他人に質問されたら、笑顔で通常通りですよ、と答えてしまう自分に、気が狂いそうだ。

参照記事 https://www.lemonde.fr/economie/article/2020/06/10/habillement-l-angoisse-de-15-000-salaries_6042360_3234.html

追記
オルセー美術館は6月23日、ルーヴル美術館は7月6日に開館予定のようである。