パリ徒然草

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パリ市庁舎前の中心で待ち合わせ

 これを今、読んでくれている私とあなたはどれだけ違うんだろう。どれだけ同じ物を全く違う物として見ているんだろう。

 

 先日、夫とパリ市庁舎の前で約束した。

 

 待ち合わせ場所について私はパリ市庁舎の建物の前ね、時計の下ね、ホテル•ド•ヴィル(市庁舎)の中心(サントルcentre)よ、と電話で言った。


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 私はその場所に着いたと思った。たくさんの人で賑わっている。イルミネーションやデコレーションも中心からだときれいに見える。記念撮影する人たちがたくさんいる。時計の下だ。ここが中心じゃなくて、どこが中心なんだ。でも夫はいない。

 


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 スマホで夫に電話した。着いたんだけど、と言うと、僕もホテル•ド•ヴィル(市庁舎)の中心で待ってるという。理解し合うまで2分以上スマホで話した。

 

 夫は私がいた場所の裏側にいた。もっとひっそりとした静かな場所。夫にとってはここが中心なんだ。なるほど、ここが中心なのかもしれなかった。確かに、時計の真下だった。

 


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 これがAIと人間の約束だったら、AIは私の脳をすべて把握して、待ち合わせ場所が違うということはないのかもしれなかった。

 


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 パリ市庁舎のイルミネーションはロマンチックだった。私は今、ここにいる奇跡を噛み締めた。世界中の恋人たちが憧れる場所。ここが世界の中心のような気がした。

 


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 夫は「毎年似たようなものだね。今年のイルミネーションは去年や一昨年と似てる」と言った。全然イルミネーションを楽しんでないのが伝わる。早く、帰りたさそう。展示が良くない、と批判している。イダルゴ市長批判に飛び火しそうな勢いである。

 

 昔、日本とフランスで離ればなれにいたとき、「君とセーヌ川沿いを一緒に歩きたい」は誘いの決め台詞だったじゃないの、と私は思い出した。パリ市庁舎からセーヌ川沿いは徒歩で5分もかからない。

 

 だが、セーヌ川岸まで歩くことなど、夫は全く考えていなさそう。寒いし、早くこの喧騒から抜け出し、帰りたさそうだ。そうだね、早く、家で温かい物でも食べよう。私は昔あんな時期もあったよね、と語ったりはしなかった。

 

 私と夫はどれだけ違うだろう。夫が嫌いな食べ物。餅、栗、イカの刺し身、納豆、辛い物すべて…。私は全部、好きだ。

 

 先月の一時帰国中、日本で私はイカの刺し身を夫に無理矢理食べさせてしまった。刺し身5種盛りを日本の居酒屋で頼んだ。私はイカの刺し身が5種の魚の中で一番美味しい、と思った。少し甘くてコリコリして。

 

 一番美味しい刺し身を食べさせたい。至高の物を分け合おう。それに二人一皿頼んだのだから、夫も5種とも一口は食べるのが平等と言うものだろう。

 

 夫は最初、拒否した。嫌いだから。

 私は一口でも食べてーと、熱っぽく語り結果的に強要した。

 

 一口食べて夫の顔は真っ赤になった。吐きそう。ごめん。酷いことをした。私はいじめっ子並みだった。さらに、申し訳ないことに、今になったらあの瞬間を思い出して超笑える、と思ってしまう。

 

 悪気はなかったのだ。自分が美味しい、と思うものを食べてほしかった。それにイカの煮込みは良く食べるので、そこまで嫌いと知らなかった。

 

 同じように、私にトリュフを食べろ、と勧めてくる人がいる。私はトリュフがあまり好きじゃない。その人は、トリュフが好きなのだ。人それぞれ。

 

 人は、皆違っている。好きな物も同じじゃない。同じじゃなくて良かった。同じじゃないから、1つの物だけを世界人口全員で奪い合わなくてすむ。


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 パリに来て、夫と住み始めたとき、夫が「僕たちは似ている」と変なことをいうので、「全然違うよ。国籍も人種も生まれた場所も顔つきも言語も性別も」と私は言った。「でもね、違いこそが豊かさなんだ」。

 

 みんなが同じだったら、全てがAIのように完璧だったら、人生は全然面白くない。

 

 これを読んでいるあなたが、私との違いを楽しんで、読んでいますように。


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【写真はすべて2022年12月午後6時ごろパリ市庁舎前】