2023年11月12日、午後8時過ぎ。暗くなったパリ、天気は雨。私はパリ、オペラ座ガルニエ宮のファサードの前で、雨に濡れながら待っていた。
ー何を?
パリには何があるんだ?ナッシング(何も)! 禅問答のような、ミュージシャンのノエル・ギャラガーのMCを思い出しながら待っていた。彼は、ニューヨークの公演でも、名古屋の公演でも、同じことを言っていた。
改修中のガルニエ宮ファサードは、ストリート・アーティストの JRがデザインしたプラトンの洞窟をイメージした作品になっている。
ここで、「Chiroptera」と題された153人のダンサーによる壮大なダンス・パフォーマンスが行われるのを待っていたのだ。
ガルニエ宮前の車道は車の乗り入れが禁止になり、野外ステージに生まれ変わっていた。オペラ広場は歩行者天国となっていた。
雨が降り続くパリ。私たち観客は、傘をさし、雨が止むのを待ち続けた。
午後9時過ぎ。やっと雨が止んで、アーチストのJRがマイクを持って登場。わ~、JRだー。拍手喝采。
このダンスのテーマは、「闇は光の恩寵を秘めている」。最近のニュースの暗さが際立つ時代に「光を取り戻そう」という意図があるようだった。
ステージは、黒ずくめの衣装を身にまとったプリマ・バレリーナ、アマンディーヌ・アルビッソンのソロで始まった。彼女の大きな影はJRの巨大なフレスコ画の洞窟に投影された。
その後、幕が上がり、ファサードの足場に153人の白衣のダンサーが姿を現し、格子の中で、全員がパフォーマンスを見せた。それは、ときに波の作る模様のように見えたり、ときに、幽霊のダンスのようにも見えた。振付家のダミアン・ジャレ、ダフト・パンクの元メンバーでミュージシャンのトーマ・バンガルターと共同で制作したのだ。
このダンスの公式の動画(シャネル提供)
https://youtu.be/hSIBwARHyXc?si=a9uq0di02K5aJhBv
私が撮影した、このダンスの動画
https://youtu.be/Nf89lnQS-WM?feature=shared
私は20分のパフォーマンスに感動した。コンテンポラリー・アートと クラシック・バレエ、現代音楽が、パリの中心で魅惑的なイベントとして不思議な世界を作り上げていた。
エンディングで手が痛くなるまで拍手喝采しているその瞬間、パリには何があるんだ?ーの問いの答えを見つけた、と私は強く、思った。
フェットだ。Paris est une fête である。パリにあるのは、祝祭である。パリには、祝祭がある!!!と、私は強く思った。
英語では Moveable Feast。日本語だと、移動祝祭日。ヘミングウェイの小説のタイトルでも、ある。
ちなみに、この素晴らしい演出は、1990年のシャネルの香水エゴイストのCMで同じアイデアが見られる。
Égoïste CM ,1990