パリ徒然草

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映画「ある男」を見た

 オデオンの映画館で映画「ある男」を見た。

 フランスでは、A Manというタイトルで公開されている。

 

 あらすじは、弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者・里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷の宮崎へ帰り、やがて出会った大祐と再婚していたが、事故で大祐が死亡した後、大祐は本名では、なかったと判明する…。

 

 良くできた映画、すべての役者の演技も素晴らしかったが、私には、引っかかりがなさすぎた。私が見たいタイプの映画では、なかった。重たい雰囲気と全編に流れる悲しみが好きになれなかった。感情移入できる人物も、憧れる人物も場所も、登場しなかった。

 

 私は刑事事件に近い場所にいないし、そういう経験もないし、在日韓国人の気持ちも分からないし、ましてや、偽名を使う人の気持ちも分からない。都会の高そうなバーでウイスキーを飲んだりもしない。

 

 じゃあ、なんでこの映画を見たのか?一つは原作が平野啓一郎氏によるものなので、深みがある映画だろう、と思ったから。実際、深みはあった。

 

 もう一つは、私は飛行機の機上で「嘘を愛する女」(長澤まさみ主演)という映画を見たことがあって、ストーリーが似ている気がして、どう違うのか、確認したい気持ちになったから。この二つは別の映画で別のストーリーだった。

 

 問題なのは、主人公の妻夫木聡演じる弁護士の城戸のアイデンティティの問題に私は全く共感できなかった。あるいは、私が日本にいた頃はこのような悩みを抱えていたのかもしれないのだが、それを見たくない、認めたくない、思い出したくもないのかもしれなかった。

 

【以下、ネタバレ注意】

 

 40歳を過ぎて駐在員だとか日本の会社の出向とかではなく、学生ビザで海外に住み始め、日本でしていた仕事と全く違う仕事をしている私は既に、ある意味、戸籍をマネーロンダリングした男たちと同じような人生を歩んでいるのかもしれなかった。

 

 別の人生を生きたい、と思うなら、海外移住はおすすめである。他人と入れ替わるよりも、ずっと、合法的で、精神的負担も少ない気がする。

 

 窪田正孝演じる「ある男」。田舎に移住し、林業を黙々とできる青年なら、海外でもっと事故の少なさそうな、安全な仕事につけたのではないだろうか?ふと、考えた。

 ちなみに、私はフランス滞在に当たって、「無罪証明書」をフランスの公的機関に提出したことがある。窪田正孝演じる「ある男」は、死刑囚の息子だったかもしれないが、犯罪歴はなかった。親の犯罪歴までは、求められないはずである。