パリ徒然草

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「Frère et Sœur」デプレシャン最新作 

 アルノー•デプレシャン監督の新作『Frère et Sœur』を見た。余韻のある映画だった。見終わって数日この映画のことを考えた。

「愛の反対は憎しみではない。無関心だ」マザー・テレサの言葉を思い出した。


 マリオン・コティヤール演じる舞台女優の姉のアリスと、メルヴィル・プポーが扮する詩人で元教師の弟ルイ。映画ではこの姉弟は毛嫌いし合っている。20年間会わないでいるほどに。ばったり出会っても逃げ出す程に。ところが、両親が交通事故に遭ってしまい..。

 映画で、家族の確執を中心に据える映画は少ないかもしれないが、現実には家族の確執はしばしば耳にする話だ。以前、一緒に働いていた女性は母親と縁を切り、10年以上母親に会っていなかった。

(ここからはネタバレと私の解釈が入るので、映画を見る予定の人は読まないで欲しい)

 前半を見ながら、姉弟の確執、憎しみ、恨みを感じた。でも、最後まで見ると、この映画は愛を描いているように私には思えた。

 ゴルシフテ・ファラハニが演じる弟ルイの奥さんは、とても美しい。でも、弟が執着するのはあくまで姉だ。姉は詩人のルイに言葉を与える。姉を思って、憑かれたように書き散らかす。たとえ、それが恨みや怒りの言葉であっても。彼の創造の源だ。恨みや怒りの向こうに彼の理想があるのだろう。

 私には弟が本人も気づいていない無意識的なものかもしれないが、美しい姉を愛しすぎてたのが問題だったように思えた。すなわちシスターコンプレックスの話だ。

 ウィキペディアによると、シスターコンプレックスの男性にとって姉や妹は性的な憧憬とも重なって理想化されたイマーゴとなり、自身の人生に親以上の影響力がある場合がある。ウィキペディアには、シスター・コンプレックス型の作家として、黒澤明大林宣彦石ノ森章太郎在原業平三島由紀夫の名前が挙げられていた。



 私の周りの2人がこの映画を見たが、2人の評価は高くなかった。なぜ姉弟が憎しみあっているのか説明がない、とか、オーバーな演技とか、ユダヤ教とか東欧の女性とか、いろいろ詰め込みすぎ、と言って批判していた。フランスでも、マスコミの評判は高いが、一般観客の評価はいまひとつのようだ。

 まあ、でも人が嫌い合うのは、ちょっとしたきっかけで大した理由がなかったりするのも事実だ。映画が全部説明する必要があるとも思えない。この映画の場合、両親の姉への溺愛に、弟が嫉妬していたのだろうかと思わせるくだりもある。

 姉の方は、弟が出版した本に姉の悪口、批判を書かれて、会うと、卒倒するくらい嫌になってしまった。

 私はこの映画を見て良かった。デプレシャン監督の優しさに満ち溢れた作品だと思う。

 詳しくは書かないが、自分の偏見に気付かされた。自分の幼少期の親や兄弟との関係についても振り返っていろいろ考えた。デプレシャン監督の映画6、7本見ているが、全部見ようと思った。

 映画は、映像と音の芸術だ。私がすべて言葉で説明するよりも、その世界に浸ってその時の自分と対話してほしい。優れた作品はさまざまな解釈を許すものだと思う。