パリ徒然草

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ル・アーブルを今日、旅できて良かった

 波の音が聞こえる。床が変わると眠れないタイプなので、深夜2時までスマホを見ながら、波の音を聞いた。明日の朝は日の出をビーチまで歩いて見に行くと豪語していた私は、どうせ旅先では早く起きるから、と目覚ましもかけず、朝方深く眠った。「8時半過ぎてる」という夫の声で飛び起きた。

 

 赤いカーテンを明けると、薔薇色の空が港の上に広がっている。わー、きれい。わ、わ、日の出だー。もう始まってるー。急げー。コートを羽織ってベランダに出る。


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 日の出は素晴らしかった。イギリスと結ぶフェリーと建造物の間から紅く輝く太陽が登っていく。神秘的で力強い。私にはその素晴らしさを上手く言葉で言い表せない。印象派の画家たちも自然だけでなく、自然の光の中にある船や工場を描いていたなあと思い出した。このアパートを選択して良かった。

 

 結局、退出時間の正午過ぎまで部屋にいた。アパートの鍵を返して、徒歩になった場合、新型コロナのせいでレストランもカフェも閉まっていて、トイレが大問題なのである。

 

 フランスに入りたくなるような公衆トイレがあるだろうか? 昨日下見した限り、心配だった。(だからこそ、今の時期、公共交通機関による日帰り旅行は厳しい。せめて一泊する必要がある)

 

 新型コロナのせいなのか、1月4日から観光局も閉まっていた。日本のガイドブックを読むのも忘れてきた。アパートに泊まって、バスにもトラムにも、乗らず、ただ歩いて気の向く場所を見学した。

 

 ル・アーブルは戦後「鉄筋コンクリートの巨匠」とも呼ばれた建築家オーギュスト・ペレを中心に再建された世界遺産(2005年登録)の街ではあるのだが、義母はこの街に来ることを訝しがっていた。きれいな街じゃない、と何度も言った。ロックダウン疲れを癒やすため海を見に来るという理由がなければ、ここに来ることはなかったかもしれない。

 

 旅の目的はいろいろだ。美しいものが見たい。美味しいものが食べたい。新型コロナの影響で美しい物を見せてくれる美術館は閉まっているし、温かく出来たての美味しい物を提供してくれるレストランも閉まっている。

 

 それでも、私は、ル・アーブルを今日、旅できて本当に良かった。これが10年前、20年前なら、同じ気持ちではなかったと思う。フランスのさまざまな地域を訪れた後だから感じるものがある。この街は、私が訪れたフランスの他の街と全然違っていた。

 

 高台の丘からル・アーブルの街を眺めながら、街を見下ろしながら、この街の持つ痛みについて考えた。この地に生きた人のご苦労やそして幸せを想像した。

 


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 ウィキペディアのフランス語版によると、第二次世界大戦中の1944年9月5ー11日、ドイツ軍に占領されていたル・アーブルの街は、イギリス空軍の空爆を受け街の82%が破壊された。8万人の市民が住居を失った。ル・アーヴルはフランスの都市のなかで第二次世界大戦で最大の惨状を呈した都市だった。ル・アーブルの街のほとんどは、戦後1945年から1964年にかけて再建されたものだ。


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 丘を降りて、オーギュスト・ペレの建築物の中を歩きながら、夫は「マンサールの建築物のような美しさはないなあ」言う。私は「マンサールは王族や貴族のための建築家だった。オーギュスト•ペレは、あのミニマリストル・コルビュジエの師だったんだよ。彼らはたくさんの市民が住める機能的建築を考えたんだ」と言ったが、夫は納得していないようだ。

 

 夫に限らず、日本の旅行ガイドブックもあまりル・アーブルの説明は書いていない。日本人がイメージする代表的フランスの観光地とは違うのは確かだ。

 

 建築は、美しいか、美しくないかだけじゃないよね、ル・アーブルの市庁舎前にある噴水を眺めながら、心の中で思った。昨年10月29日に行ったヴェルサイユ宮殿の噴水は止まっていたけれど、ここの噴水は勢い良く水が流れている。

 


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 人が生きているってことだよ。市民を一人でも早く、しっかりした住宅に住まわせたかったんだ。戦後の歴史を否定することはない。これで良かったんだよ。

 

 噴水を見ながら思う。トラウマは水に流してしまおう。日本とフランスは立場は違ったけれど、先の大戦で、どちらの国にも、傷ついた市民がいる。戦争があれば、傷ついた市民は、どの国にもいる。そろそろ世界中の市民は戦争は嫌だーというその一点で同じ気持ちになれるのではないだろうか? と、噴水の向こうの太陽が眩しくて、不意に夢物語の様なことを考えた。

 

 それにしても、写真で見ると、ル・アーブルの空は詩的だなあ。ル・アーブルのビーチで写真を撮るとき、寒すぎて、そこまで見ていなかった。


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 明日、ル・アーブルで見たものについてもう少し書こう。ここには20世紀最高の建築遺産と言われる美しい建築物もあった。

 

【帰ってきて読んだウィキペディアのフランス語の記事】

"Bombardement du Havre — Wikipédia" https://fr.m.wikipedia.org/wiki/Bombardement_du_Havre#:~:text=Les%20bombardements%20du%20Havre%20sont,la%20plus%20d%C3%A9truite%20de%20France.