パリ徒然草

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パリとらやのどら焼き

 若い頃は洋菓子があれば十分だと、思っていた。10歳くらいから自分で菓子を作っていたが、参考にしていたのは、分厚い洋菓子作りの本で、その中にカタカナ文字の美しい洋菓子たちの写真が並んでいた。キルシュ・トルテ、カトル・カール...etc.。

 

 そして、今。和菓子が恋しいのである。歳を取ったということだろうか。

 

 パリに住んで、10年以上。約10年間はパリで和菓子を食べたいと思いもしなかった。洋菓子たちを食べて大満足だった。(いただいたり、試してみようという気持ちから、マレ地区やオペラ地区の何軒かのパリの和菓子店の菓子も何度か食べたことはあったにしても)。

 

 去年の11月に日本に帰省し、和菓子の美味さ、美しさに開眼した。(ちなみに日本で食べた洋菓子は軽すぎて私の舌には、全く響かなくなってもいた。自分の変化に驚いた)。

 

 その11月の、ちょうど1年前の3週間の日本滞在でどら焼きを食べ損ねた。和菓子の美味しさに目覚め、そうだ!、どら焼きを買おうと日本滞在中、思い続けていたが、買いに行った有名な和菓子店に、贈答用の箱の和菓子をたくさん頼んでいる人がいて、滞在が限られているので、待つのが嫌で諦めたり、今日は、いただき物があるので甘い物は買わないようにしようと思ったり、コンビニじゃなくもっと美味しそうな店で買おうと思い続けていたら、結局、1個も食べることも、買うこともせずに、パリに戻ってきてしまった。いつでも買える、と思ったのがいけなかった。

 

 その去年の11月から、約4ヶ月後に自分でどら焼きを作った。日本から持ってきたあんこを使った。使い込まれ過ぎたフライパンを使ったせいもあって、皮が焦げ、固いホットケーキのようだった。

 

 その後、パリのスーパーで長期保存できるタイプのどら焼きを何度か買って食べてもみた。

 

 だめだ、もっと本物のどら焼きが食べたい。私はドラえもんのように、どら焼きにこだわり始めた。

 

 そして、先月。日本帰省から11ヶ月後。10月後半のある日。私は意を決して、「とらや」にどら焼きを買いに行った。とらやの羊羹は何度も、空港で買って持って来たが、そして、パリとらやの前も何度か通ったが、パリのとらやに買いに行くのは、なんだろう?その場所もあって、敷居が高いイメージだった。

 

 ウィキペディアによると、株式会社虎屋は、東京都港区に本社を置く和菓子メーカー。1520年、室町時代に京都で創業し、後陽成天皇に和菓子を献上して以降、皇室御用達の製菓業となった。これまで約480年の歴史を持つが、明治時代になって東京に移った。

 特に羊羹の製造販売で知られ、「とらやの羊羹」として広くその名を知られている。

 日本国外でも事業を展開しており、1980年にはパリ、1993年にはニューヨーに出店している。ただし、後者は2003年10月をもって閉店した。

 

 な、なんと、なんと、とらやは、世界中に、日本とパリにしか、存在していなかった。日本から遠く離れたこの場所で、天皇家御用達の店で買えることに感謝しないといけない。パリにお店があるなんてラッキー、ラッキー、ラッキー(UKロック、フランツ・フェルディナントの歌風)じゃない?

 

 コンコルド広場から目と鼻の先に、「とらや」はある。パリ1区・サントノレ通り 。シャネル、エルメスなどの高級ブティック、高級ホテルクリヨンなども遠くない。

 

 そんな「とらや」様に行くことに緊張したのだろうか?私は携帯電話を持って行くのを忘れた。グーグルマップがないので、道に迷った。マドレーヌで地下鉄を降りて、ラデュレの前を通り、間違って右に曲がってしまい、周辺をうろうろした。遠い記憶を頼りに、運良くたどり着いた。ふう、着いて良かった。ラッキー、ラッキー、ユア ソー、ラッキー(フランツ・フェルディナントの歌風)である。

 

 とらやの前のショーウインドーには、いくつかの生菓子が並んでいて、材料のフランス語をじっくり比較検討して、入店前に選択した。

 

 店内はレストラン、喫茶になっていて、私が訪れた午後は満席で、何組かが列を作って待っていた。持ち帰りについては、すぐに、スーツを着た男性がにこやかに的確に迎えてくれ、フランス語で買い物した。

 

 買ったどら焼きと生菓子。2つで、10ユーロ程度だった。

 家に持ち帰り、すぐに、食べた。

 

 ときを忘れた。

 

 

 私は、多くの食物を夫と分かち合っているのだが、あー、だめだ、全部食べてしまう、食べてしまう、ヤバい、全部食べちゃうと思った。2つともペロリとなくなった。

 ときを忘れていた。私は全く別の世界を旅していたようだった。

 

 どら焼きは、見目麗しく、皮がフワッとしてスポンジケーキのような食感で甘すぎず全てに置いてバランスが取れていた。とらやのどら焼きの名前は「夜半の月 」という。曇り空にうっすら映える満月の形をイメージし、小倉餡を挟んでいる。

 

 私が生涯で食べた最も美味しいどら焼きだった。日本に帰る体験というより、それは、生涯の初体験だった。

☆☆☆☆☆

店内の写真を撮ってないので、興味のある方はこちらのサイトでどうぞ。  

とらやパリのサイト

https://paris.toraya-group.co.jp/