パリ徒然草

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ウクライナ戦争に巻き込まれた私たち

 一ヶ月くらいから、TV画面やスマホウクライナのゼレンスキー大統領を見かけた。一瞥したとき、ただ一瞥したその瞬間に、そら恐ろしいものを感じた。凄く苦しくなった。胸騒ぎがした。

 誰に対してもこんなことを思うわけではない。人生で数回しかこんなことは、起きない。できるだけ私の視界に入れないように心がけてきた。なぜ、そう思ったのか。


 テレビの中のゼレンスキー大統領は市民に戦闘を呼びかけ、18歳から60歳の男性の国外退避を禁じ、希望者には無差別に武器を配っていた。大統領が民間人に武器を配って市街戦や籠城をさせていた。

 こんなこと、現代でやっていいのか???

 衝撃であった。

 ウクライナでは、私の夫のような男性でも、銃を取ってロシア兵を撃ち殺すしかない雰囲気かもしれないんだな、と想像した。

 ジュネーブ条約はどこへ行った?
 ハーグ陸戦条約はどこへ行った?
 戦闘員と非戦闘員は区別しなければいけないという考えはどこへ行った?

 これでは、侵攻してきたロシアの軍隊も民間人を撃つしかない。ロシア兵も死にたくはないのだから。民間人でも武装したからには、敵にやられても文句は言えない。侵攻したロシア軍が悪いのは確かだが、相手が国際法違反したから、自分も違反するでいいのだろうか。


 竹槍を持って戦おうとした、戦前の大日本帝国の時代を思い出した。軍需工場で働いていて、原爆投下で、遺骨も親に渡らなかった、60年以上もどこで死んだかすら分からなかった10代の少女を思った。少女は何も悪くない。軍部が大日本帝国政府が悪い。日本は反省したのではなかったのか。

 東京大空襲や原爆など米軍に爆弾を落されても、米国に一般市民を殺すのは国際法違反と強く言わなかった、言えなかったのは、一般市民も子供をも、戦え、武器を作れーと戦争に巻き込んでいたのも一因ではないのか。


 大統領が市民に戦闘を呼びかけ、武器を配ることに対して、日本も、フランスも、ドイツも、誰もおかしいと言わないのか。頑張れーと言うのだ。多くの国が武器に変わる経済的援助をするのだ。武器を送り、資金援助をすれば、当然、戦争は長引き、ウクライナ、ロシア双方で犠牲者が増える。戦争が引き延ばされ、より多くの罪もない人間が命を失うことになる。

 おかしいだろう? 人道支援はするとしても、武器援助より、戦争終結に向けて仲裁すべきだろう?

 さらに、受刑中の人も希望者は銃を渡され前線に立つことなった。

 もし、ウクライナ大統領と同じことを日本政府がしたら、私は怖くて日本に住めなくなるだろう、と想像した。日本では、拳銃の不法所持は重要な犯罪で、それがいいと思って来た。

 日本にいたとき、8歳で小学校の同じクラスの児童に私の宿題は盗まれたし、同窓会に行けば盗難やスリに遭ったし、学生時代の一人暮らし時の不法侵入にも遭った。田舎だが、近所の人は留守中に家に泥棒に何度か入られ、セキュリティを万全にした。おばは大金の入ったバッグを力づくで盗られ、怪我をし、そのバッグに入っていた鍵で家に侵入されて、家を荒らされた。すべて平和な時代の日本での話だ。コロナで重症化するより、はるかに多い確率でこういうことは起こっている。

 報道はあまりされないが、震災のときも、犯罪や盗難は起きている。だから性善説に立てない。武器を渡せば、敵国の軍隊ではなく、隣人の財産を狙う人もいるし、銃を売る人もいるのが世界だと思っている。社会秩序が保てなくなる危険があると思う。

 私と違って多くの人は、銃を渡せば、お国のために、一人でも多くの敵国の人間を殺すと思っているようだ。性善説とすべての人が国を守るナショナリストという考えに基づいている。


 ウクライナのゼレンスキー大統領は世界に向かって「戦闘員来てくれ」とも公言していた。これも、怖かった。これも国際法違反だ。国際法には、傭兵の募集や使用を禁止する条約がある。ウクライナはこれに批准しているそうだ。

 傭兵ではなく、ボランティア、義勇兵だから、いいのだ、と言う。無給でウクライナに行って正義のために戦いたい、死んでもいいー聞こえはいいが、どんな人が入ってくるのかも、分からない。(日本人も70人が応募した、とも、聞いたが、憲法違反かもということで外務省が日本人に渡航しないよう呼び掛けたはずだ)


 さらには、ロシアも同じように志願兵を募集し始めた。傭兵と傭兵の闘いになる。指揮命令も難しくなる。カオスになる。泥沼になる。戦争を終わらせるのはますます難しくなるのではないだろうか。気が遠くなる。


 見たくない。

 あまりにこの話が恐いので、一時は、情報から遠ざかる努力をしていたが、23日に、日本とフランスの国会で、ゼレンスキー大統領がリモート演説して、その演説をネットで聞いた。既にイギリス、アメリカ、ドイツなどでも演説していた。

 日本の演説もフランスの演説も国に合わせて良く錬られたものではあった。日本には、感謝と日本昔ばなし、フランスにはベルモンドと「自由、平等、博愛」。岡本裕明氏のブログによると、大統領のそばには米国人の補佐がいるのだそうだ。

 ゼレンスキー大統領の演説への日本人の評価は概ね好意的だったが、私は日本の国会でのリモート演説に、非常な違和感を覚えた。

 日本の政治家たちは、ゼレンスキー大統領と対等な位置にいないのだろうか?。「閣下」「閣下」と呼び、恭しく「拝聴」し、拍手喝采する。会場が狭いせいか、皆同じ方向を向いている。それは、まるで教祖様に熱狂する信者たちのようにも、オーウェルの小説「1984」の世界にも見えた。

 これが無条件降伏敗戦国日本というものなのかもしれなかった。こうならないために、ゼレンスキー大統領は、無条件降伏せず、ウクライナ国のために武器や経済支援やロシアへの経済制裁を、各国に求めているのだ。

 では、ゼレンスキー大統領とは、どんな人だろうか。

 1978年1月25日、ウクライナソビエト社会主義共和国(当時)のクルイヴィーイ・リーフに生まれた。父は研究者で、母はエンジニア。コメディアンだったが、大統領役を演じた政治風刺ドラマが大ヒットし、2019年、大統領に出馬し当選した。

 ウクライナ東部出身のために母語はロシア語。元々ウクライナ語は苦手で俳優業やメディアではこれまでロシア語を使用してきた。大統領当選以降はウクライナ語の特訓を受け、会見等ではほぼウクライナ語のみでこなしている。

 41歳になって、苦手だった言語を使いこなすゼレンスキー大統領は、魅力と才能にあふれている。


 一方で、私にはゼレンスキー大統領の気持ちが想像がつかなかった。ウクライナでは、ゼレンスキー大統領になって以降、国民にロシア語を禁止する法律を作っている。国民の約3割がロシア語を使っているにも関わらず、だ。


ウクライナ、ロシア語広告を禁止(2020年)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/26601


 41歳まで自分が使ってきた母語のロシア語をウクライナ国民に禁止する気持ちが私には、想像できなかった。

 ネットで検索してみると、いろんな分析があった。

 ゼレンスキー大統領はアメリカとロシアの二重スパイで、特に、ロシアに忠誠を誓っているーという説がある。


ウクライナ大統領の“報じられない闇”とは!? ユダヤ、マフィア、ロスチャイルド… ジェームズ斉藤が完全暴露
https://tocana.jp/2022/03/post_231847_entry.html

 スパイとまで断言せずとも、「なぜロシアがゼレンスキー大統領の大胆不敵なリモート演説を黙認しているか」を分析した記事も読んだ。

田中宇氏「プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー」
https://tanakanews.com/220322ukraine.htm

 ゼレンスキー大統領は、ユダヤ人であることを強調する人もいる。世界を牛耳る闇の政府に選ばれて、この役を演じているという人もいる。

宇野正美氏 「ゼレンスキー大統領について」
https://youtu.be/R3-vQwCAUWI

 ゼレンスキー大統領はユダヤ人で、祖父はソ連軍でナチス・ドイツと戦い、親戚の多くがホロコーストで命を落としたという。

 世界でユダヤ人が政府のトップの国が二つある。ひとつは、ユダヤ人が多数派の国イスラエルで、もう一つがウクライナだ。

 ゼレンスキー大統領は3月20日イスラエルに対してもリモート演説した。対空防衛システム「アイアンドーム」の輸出などの支援を求めた。

演説要約 https://news.yahoo.co.jp/articles/64407c2e459d996bce803331cac76e763d50f58d


 この演説でホロコーストに触れたことが、イスラエルの議員やメディアの間で一定の怒りを呼んだ。「戦争と、ホロコーストを比較することは、完全に歴史を歪曲するものだ」「ホロコーストにおけるウクライナ人のナチス協力者の役割を否定しようとするものだ」などの批判も聞かれた。


 イスラエルウクライナへの武器提供の要請に応じず、ロシアへの経済制裁にも加わっていない。イスラエルのベネット首相は調停しようと、3月5日ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも会談している。


 日本政府も、イスラエルのような中立の態度を取りながら、ロシアとウクライナの調停を試みる道もあったのでは、とも思う。

 安倍元首相は、プーチン大統領と27回も会談したことがあるのだという。日本の秋田犬をプレゼントしたりもしていた。岸田首相が被爆者とともに、プーチンを説得に行くのはどうだろう。日本がロシアに「非友好国」に指定されてしまった今からでは、仲裁するのは、もう遅いのだろうか。


 一刻も早く、即時停戦を実現させて和平交渉の舞台を設置し、ウクライナの人々の命を守ってほしい。


 ロシアへの経済制裁によって、日本でもフランスでもガソリンや食料品の値段が上がっている。円安も進んでいる。この戦争で経済制裁されていくのは、日本やフランスやドイツやさまざまな国々の一般市民なのだ。私も、避けようとしても、見ないように努力しても、否が応でも、ウクライナ戦争に巻き込まれている。




(余談、近況報告)

 帰国しようかと考えていたが、ウクライナ戦争でパリ ー東京の日系の直行航空便はなくなってしまった。さらに、飛行時間も長くなっているようだ。

 私にとっては、母語である日本語は「精神」である。道具ではない。どんなに第二外国語であるフランス語を使う時間が長くなっても「日本語」こそが祖国である。日本に帰れなくとも、こうして日本語で何か書くことが日本に帰るような行為なのだ。

☆★☆追伸
これを書いた後に、以下の記事も読んだ
http://www.snsi.jp/bbs/page/1/