パリ徒然草

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ソフィ・カルの「オルセーの幽霊たち」展

 オルセー美術館で、ソフィ・カルSOPHIE CALLE の展覧会『 オルセーの幽霊たちLes fantômes d’Orsay 』展が開かれている。




 私がソフィ・カルを知ったのは、小説の中でだった。アメリカ中の自由の女神像を爆破する男と小説家の関係を描く1992年のポール•オースターの小説『リヴァイアサン』。





 フランス人の友人がオースターの本を読んでいたのがきっかけで、読んだのだが、私には、小説の中で、探偵を雇って自分を尾行させ作品を制作する女性の芸術家マリア•ターナーの存在が心に残った。生き生きと感じられた。









 その後書きで、この女性芸術家のモデルは実在のフランスのアーチスト、ソフィ・カルだと知った。






 さて、展覧会について紹介しよう。オルセー美術館はかつて駅舎と併設のホテル「Hotel de la Gare(オテル・ドゥ・ラ・ガール)」だった。






 1978年、オルセー駅とホテルは荒廃していた。オルセー美術館へと生まれ変わる工事はまだ、始まっていなかった。ソフィ・カルがたまたま小さなそのホテルの木の扉を見つけ、押してみたところ、扉は開いた。その時から1979年にかけて彼女は無人のホテルで、ときどき過ごすことになる。




 5階建ての250室あるホテルは廃墟と化していた。ソフィ・カルは特に501号室を選び、写真を撮影し、友人を招き、ホテルに残されていた請求書や宿泊者カードなどの書類、部屋番号のプレートや鍵などのオブジェを集めた。





 この展覧会では、当時のホテルの壁紙を貼って、モノクロ写真とともに、オブジェ、書類などを美術品のように展示している。と、同時に、考古学者、ジャン=ポール・ドゥムル(Jean-Paul Demoule )によるオブジェや書類への解説文も添えられている。





 ホテルは確かにここに存在した。見学者はソフィ・カルと一緒に、消えてしまったホテルに舞い戻る。と、同時に見学者は、未来人になって、これらオブジェや書類を考古学的に見るのだ。過去と未来を同時にタイムスリップする。





 ODDO(オッド)という修理などを担当する、なんでも屋らしい人物に向けたメッセージを集めたメモも展示されている。だが、調べたところ、ODDOは従業員名簿に載っていない。ODDOは幽霊だろうか? 展覧会のタイトルは「オルセーの幽霊たちLES FANTÔMES D'ORSAY」だ。












 さらに次の部屋には、ソフィ・カルが代表的なオルセー美術館の9つの印象派絵画を暗がりで撮影した写真が展示されている。新型コロナの影響で外出制限中に閉館中の美術館を訪問する機会があったソフィ・カル。その時この企画を思いついて撮影したのだ。そこには9つの作品のタイトルを盛り込んだソフィ・カルによるフレーズも。





 私はたまたまナイト・ミュージアムの夜に見学した。




【以上15枚の写真は、すべて展覧会で撮影】


 この展覧会を見た後、私はいつのまにか、この美術館のレストランの中で、あるいは展示室の暮れてゆく窓の外に幽霊を探していた。すっかりソフィ・カルの企みにハマってしまっていた。


 私が誰もいない美術館のレストランをつい撮影したのは、幽霊のいたずらによるものだったかもしれない。



オルセー美術館のレストラン】

 展覧会は6月19日まで。

 


parisienの記事(フランス語)
https://www.leparisien.fr/paris-75/paris-une-exposition-ressuscite-le-grand-hotel-dorsay-29-03-2022-XFBCJA632VGCFEH53U6LR23HXE.php

マダム フィガロ
https://madamefigaro.jp/paris/220414-sophie-calle.html

オルセー美術館のサイト(フランス語) 
https://www.musee-orsay.fr/fr/expositions/sophie-calle-et-son-invite-jean-paul-demoule-201182
 
ソフィ・カルへのインタビュー(美術手帖
https://bijutsutecho.com/magazine/interview/19253

ソフィ・カル(ウィキペディア) https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%AB

オルセー美術館という作品 ブログ
https://clairefr.hatenadiary.com/entry/2022/05/15/172038