パリ徒然草

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オゾン監督の最新映画を見た

  フランソワ•オゾン監督の最新映画『Peter von Kantピーター•フォン•カント』を見た。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督による傑作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)への賛辞を捧げた作品で、ほぼ同じストーリーだが、業界がファッション業界から映画業界に、主要登場人物が3人の女性から3人の男性に変えられている。すなわちレスビアンではなく、ホモセクシュアルの愛を描いている。

 成功した有名な中年の映画監督、ピーター•フォン•カント(ドニ•メノシェ)は、従順なアシスタントの男性、カール(ステファン•クレポン)と暮らしている。有名女優のシドニー(イザベル•アジャーニ)がピーターの家を訪れ、続いてシドニーの友人のアミー(カリル•ベン•ガルビア)がやってくる。若く美しい男性のアミーにピーターは恋に落ち、一緒に暮らすことを提案、映画の主役を与える。

 成功した映画監督が、若く自由奔放なアミーを独占しようと苦悩し、アミーが出て行ってからは恋い焦がれ、涙を流すのが痛々しい。ある種滑稽でもあるのだが、まあ、でも、人間にはこういう気持ちもあるよね…。

 同性愛だけにとどまるものではなく、普遍的な人間心理が描かれていると思った。ピーターの台詞の中に、20本以上の映画を監督し、近年も1年に1本は映画を製作し続けるオゾン監督の創作の原動力への思いが吐露されている気もした。

 話はすべて、ピーター•フォン•カントの家だけで展開する。観客は1時間25分、濃い心理劇が展開する密室に閉じ込められることになる。

 オゾン監督は、2000年にファスビンダー脚本による「焼け石に水」を製作している。私が見たオゾン監督の作品の中でも好きな作品の一つだ。

 『Peter von Kant』を見たら、今から半世紀前の72年の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を見たくなった。

https://youtu.be/eq0w_XsEAAU

 それにしても同じようなストーリーの心理劇であっても、女性3人と男性3人では映画の雰囲気全く違うなあ。この映画のエンドロールが流れるパリの映画館で、2列前にいる女性二人が熱いキスを交わしていた。つい見てしまった。

 (映画祭だったので一本4ユーロで映画が見れた)