パリ徒然草

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今週のお題「最近見た映画」 「サンバ」(2014年仏)は移民の問題も、燃え尽き症候群も、他人事と思えず 

 「サンバ」は2014年フランス映画。「最強のふたり」(11年)で売れっ子になった俳優オマール・シーが、フランスのアフリカ系不法移民サンバを演じる。女優シャルロット・ゲンズブール扮するキャリアウーマン、アリスは、働き過ぎて「燃え尽き症候群」で精神不安定。そんな二人の恋模様は? 

 不法移民と燃え尽き症候群、どちらもフランスの現代を写す決して軽くない社会的なテーマ。途中の展開はあくまで陽気でコメディ風だが、ラストに待ち受ける複雑な結末。考えさせられた。


 フランスに来て10年。ビザのうっかり失効のために突如、国外退去を命じられた青年サンバ。燃え尽き症候群に陥り休職中に移民支援協会でボランティアしているアリス、そして面倒見のいい陽気な移民仲間ウィルソンなどわけありの面々が登場する。


 滞在許可証で並ぶシーン、あー、ここ私もどこか知っている、私も並んだーという意味で他人事と思えない。不法移民も、燃え尽き症候群も、他人事ごとと思えない。バーンアウトした後、癒やしてくれるのは、精神科医でも、薬でもなく、人なのだと感じる数々のシーンは悪くない。


 深夜の警備員、ゴミの仕分けや高層ビルの窓清掃など。サンバの日雇いの仕事のシーンがコメディタッチでドタバタ劇風に描かれる。ラテン系移民のウィルソンが加わってからは、高層ビルの清掃用のゴンドラの中から踊りを披露し、ガラス越しに女性社員たちが大盛況になり、明るいノリ。建設現場で塗装の仕事をしていると、不法滞在取締りの警察がやって来てサンバとウィルソンはパリの屋根の上で逃走劇を繰り広げる。

 現実はもっと暗く厳しい、と知っている。パリの図書館で、不法移民の真のドキュメンタリーを見たこともあるので知っている。リアリズムがないという批評はその通りだが、寧ろ、重くなるテーマを敢えて、明るいコメディタッチで描き、人気俳優を出演させて、エンターテイメントとしても、成り立たせていることを評価したい。

 ウィルソンも本当は偽造した滞在許可証で暮らしており、本当はアラブ系だった。少しでも職業斡旋所の印象がいいようにラテン系移民を装っているだけだった。どの国や地域にも、ステレオタイプに人を見るということ、あるんだな、と考えさせられる。


 ラストの結末は映画「太陽がいっぱい」の主人公が他人になりすましたことに似ている。他人の滞在許可証を使う。明らかに犯罪である。それでも、サンバの笑顔、サンバがそこにいるということ、サンバの存在感に勝てない。一枚の滞在許可証は、サンバの存在感に負けている。

 
 恋愛ものというよりは、仕事のシーンが多い。自分の出身を偽らないとまともな仕事にありつけない移民たち。一方で、アリスは男性社会で管理職として働いていることが分かるシーンがあり、燃え尽き症候群になったということはやっぱりどこかで自分を偽って生きているのでは?と考えた。
(23時からテレビでロックダウン中のパリで鑑賞)