パリ徒然草

パリでの暮らし、日本のニュース、時々旅行、アート好き

重苦しい気分になる日本帰国 祖母、父、母、私のトラウマ 

 最近、しばしば、一緒に住んでいた祖母のことを考えていた。

 パリのソルドでキラキラした物を買うとき祖母を思う。

 祖母は、小さな子供の私に太平洋戦争中のトラウマを語っていた。戦時中、砂糖を貸してもらえなかったトラウマを。

 戦争中、生まれたばかりの父を含めて3人の男の子の母親だった祖母。お菓子を作って売って生計を立てていたが、砂糖が手に入らずお菓子を作って売れないので、祖父の実家に砂糖を借りに行った。だが、砂糖を貸すのを断られた。玄関の扉をピシャリと閉められたとき、玄関前で涙した話を語っていた。

 私の父親が3歳のとき、祖父は、病気で死んだ。戦争中は祖父はどういう状態だったのか、聞きそびれたが、祖母は、戦中、戦後、3人の子供を育てながら自分で稼ぐしかなかった。

 私の父は小学生高学年の時から、10歳からリヤカーを引いて、働いていた。当時でも周りの子供でそんな子供はいなくて、屈辱的なことだったようで、そのトラウマも父はしばしば語った。

 晩年になって、祖母の兄弟から、祖母に土地の売買で得た遺産が転がり込んでも、祖母が質素な生き方を変えることはなかった。少ない持ち物の時代遅れの服を着ていた。 最晩年、体にがんがあってもいつもニコニコしていた。

 私の母も私にトラウマを語る。

 高校生のとき、親が授業料が払えなかった、と。70歳過ぎても、高校生の頃のトラウマは癒えていないようだ。

 お金や食べ物がないことについてのトラウマ。

 「自由、平等、博愛」ーと、小学生で習ったけれど、「平等」はないですよね。

 その小学校、こんな私の家が一番裕福に思えるくらい貧しい人が多かった。大人になって小学校の同窓会で私の財布がなくなった話や小学校のタイムカプセルを開けたとき、カバンがいくつも盗まれたことは以前書いたと思う。同窓生の犯行と思いたくないが...。タイムカプセルには、30年後の夢を書いた文集を入れたのに、夢に泥を塗られた思いがした。


 平等は、嘘ですよね。昔も今も。


 せめて、私自身が人を平等に見ようと思う。人の地位や職業や有名かどうか、金持ちかどうか、フォロワーが何人かで判断するのを辞めるのだ。数字で判断するのを辞めよう。サンテグジュペリの小説「星の王子さま」に書かれた言葉のように。

 私は、祖母を尊敬している。

 一昨年亡くなった叔母も、定年退職後も働いて、似たような生き方だった。


 でも、おばあちゃん、おばちゃん、見てますか。私は、パリで、キラキラしたオレンジ色のワンピースを買う。

 私たち庶民だって、幸せになっていいのですよ。貴族や天皇家の人たちや女優さんだけが美しい服を着る特権があって、幸せになっていい時代じゃないのです。幸せに生きることで、少しでも「平等」に近づくのです。


 私はおばあちゃんやおばちゃんのできなかったことをします。


 赤色のブラウスを着て花柄のスカートを履いていた今朝の7時9分、夫が言った。

「安倍元首相が銃で撃たれた。フランスのニュースで読んだ」

 私は驚かなかった。ああ、またか、と思った。

 政治家への銃撃事件をめぐっては、長崎市では、過去に2人の市長が銃撃された事件が起きている。

 平成19年4月には、長崎市長選挙で4期目を目指していた当時の伊藤一長市長が、JR長崎駅近くの選挙事務所で暴力団員に拳銃で撃たれ、死亡する事件が起きた。

 また32年前の平成2年1月には、当時の本島等市長が市役所の前で右翼団体幹部に銃撃され、大けがをする事件が起きている。「天皇の戦争責任」を発言したのが、原因だった。

 私は、自国に帰るのが重苦しい気分になる。自国に帰りたい、帰れて嬉しいと思える人が羨ましい。アルザス地方のイラストレーター、Hansi(アンシ1873年 - 1951年)のこのイラストを見たときも、喜んで故郷に帰る人たちが羨ましい、こんな気持ちになれるだろうか、と思った。


 パリにいる祖国に帰りたがらない、祖国が戦争で破壊された移民の心が私には、身近に感じられる。

 祖母は最晩年、病院で「家に帰りたい。帰りたい」と言った。それは、一緒に住んでいた家ではなく、彼女が若い頃、飛び出した島にある実家のことだった。15年くらい前に亡くなった祖母が幸福だった時代は子供時代、昭和以前の話なのだった。

 日本国内なのに、祖母がそこに帰ることは私が物心ついてから祖母が死ぬまで一度もなかった。彼女が求める‘’実家‘’‘’思い出の場所‘’はもうないと知っていたから連れて行かなかったのだが、一度、その場所に連れて行ってあげたかった、と今、思う。

☆☆☆
私にはトラウマを語れる子供も孫もいない。私のトラウマを最後まで読んでくださってありがとう。