安倍元首相銃撃を考える（4）　フランスの反セクト法

　安倍元首相銃撃事件の容疑者が「母親が旧統一教会（世界平和統一家庭連合）に多額の寄付をして生活に困り家庭が破壊された」と動機を供述し、統一教会と日本の政治家の癒着が日本やフランス、ドイツ、アメリカなど世界のメディアで取り上げられている。

　フランスは2001年、「反セクト法」（仏語;Loi About-Picard）を制定し、旧統一教会などの団体の悪質な行為に一定の規制をかけてきた。「反セクト法」を紹介し、容疑者の生い立ちなどから見えてきた旧統一教会の日本での活動を考える。

　フランスの反セクト法は2001年、シラク大統領の時代に制定された。ヨーロッパ各国では 1980年代に世界基督教統一神霊協会（統一協会）に入信した信者と家族の間で問題が頻発したことを受け、当時のフランス首相、ピエール・モーロワから調査を委嘱された下院議員、アラン・ヴィヴィアンが 1985年4月、「フランスにおけるセクト、精神的自由の表現か悪質なかつぎ屋か」と題する報告書を提出したのが始まりだった。

　その後、国会に調査委員会が設置され議論を重ねた。日本のオウム真理教による地下鉄サリン事件（1995年）の衝撃も法律制定に影響を与えた。

　反セクト法は、セクトと看做される団体の違法かつ悪質な活動に一定の規制をかけるための法律。人権の侵害が疑われる活動を行う団体が繰り返し犯罪を犯しかつその活動内容が恒常的に悪質であるとき、その団体に無制限な活動の自由を認めるべきでなく、悪質さと犯罪性を根拠にその団体に一定の活動制限や処罰を与えるべきかを争点とする裁判を開くことを可能にした法律。

　代表的なところでは旧統一協会（世界平和統一家庭連合、世界平和統一家庭連合）、サイエントロジー、エホバの証人、崇教真光などの現地法人がフランス国内での犯罪性や人権侵害の度合いなどに基づきセクトとして取り扱われている。

　セクト法の反社会的宗教団体の基準は以下の10項目。

(1)精神的不安定化
(2)法外な金銭要求（献金など）
(3)元の生活からの意図的な引き離し
(4)身体に対する危害
(5)子供の強制的な入信
(6)反社会的な説教
(7)公共の秩序を乱す行い
(8)重大な訴訟違反
(9)通常の経済流通経路からの逸脱（高額な物品販売など）
(10)公権力への浸透の企て
　

　さて、今回の銃撃事件の容疑者の生い立ちや弁護士の話から見えてきた旧統一教会の実態は、まさにこの10項目に当てはまる。

(1)精神的不安定化（容疑者ら宗教二世、三世の精神的不安定化、合同結婚式で若くして結婚させられた女性も）　
(2)法外な金銭要求（容疑者の母親だけで１億円とも言われる献金）
(3)元の生活からの意図的な引き離し（容疑者が自衛隊時代に病気の兄に保険金を残すため自殺未遂した際も母親は息子のもとに駆けつけず教団にとどまった。泊まり込みのセミナーや共同生活）
(6)反社会的な説教（一例だが、「日本はサタン側のエバ国であり、主の国韓国を40年間迫害してきた罪深い国」という教え）
(9)通常の経済流通経路からの逸脱（一千万単位の高額な壺、100万円単位の印鑑など）

(8)重大な訴訟違反
　全国霊感商法対策弁護士連絡会がまとめた資料によると、全国にある弁護団のもとに寄せられた相談件数は１９８７～２０２１年で２万８２３６件。被害額は約１１８１億円です。これに消費者センターが１８年まで集計した相談件数・被害額を合わせると、相談件数が３万４５３７件、被害額が１２３７億円。（新聞「赤旗」より）

　そして、
(4)身体に対する危害
(7)公共の秩序を乱す行い

　これについては、元信者、元世界日報編集局長の副島嘉和氏を巡る襲撃事件が起きている。

　ウィキペディアによると、1983年10月1日、副島の編集局長解任を目的に国際勝共連合理事長梶栗玄太郎ら約百人が東京都渋谷区の世界日報社を占拠し社員を監禁、暴行した。その後、副島氏が「文藝春秋」で統一教会の内情を暴露する手記を掲載したところ、1984年 6月2日副島氏襲撃事件が起きた。犯人を特定できないまま、1991年6月2日にこの傷害事件は公訴時効を迎えた。
　
　そして、
(10)公権力への浸透の企て
　これが最近の内外のメディアが取り上げている政治家と旧統一教会の癒着である。二之湯智（にのゆ・さとし）前国家公安委員会委員長と旧統一教会の複数回に渡る関係など、公権力に食い込んでいる。