パリ徒然草

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三島由紀夫ブーム?① パリで「日本・ミシマ・そして私」というイベント

 パリ中心地の文化施設イメージ・フォーラム(Forum des images)では、昨年10月から今月15日まで「日本・ミシマ・そして私」(Le Japon, Mishima et moi)が開催されている。Mishimaとは作家、三島由紀夫のことである。この文化施設は商業施設と連結しており、クリスマス頃には特に人通りも多かったこの場所で、3ヶ月にも渡り、三島の名がポスターに輝いていた。もしかして、フランスでは三島由紀夫ブームなのか?

 


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 1月6日、私はこのイベントの講演会に行った。最初の私の関心事は三島由紀夫を題材にした、どう考えてもマイナーな、このイベントに果たして何人の人が集まるのだろう、ということだった。50人くらいの人が集まった。若者もいた。日本人らしき人は、私だけに見えた。

 

 講演してくださったのは、ジュリアン•ペルティエ(Julien Peltier)さん。フランスで出版されている武士やサムライ関連の書籍の著者で、サムライの専門家だ。講演のタイトルは「Mishima au prisme des idéaux du guerrier japonais」。武士の理想化のプリズムにおける三島。講演はフランス語。

 


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 講演では、三島由紀夫の祖母が武士の家系で、幼少期の三島は祖母の下に育ち、歌舞伎や能と親しんだこと、「能」には、理想化された武士の姿が描かれていること、三島が江戸時代に書かれた武士の心得の書物「葉隠」に惹かれ、「葉隠入門」の書籍があることなどが語られた。

 

 理想の武士のような体を作ろうと三島が剣道をしたり筋トレする写真も紹介された。

 

 文化施設イメージ•フォーラムは「イメージ」というだけあって、映像作品を公開している場所なので、講演とともに、映像作品も上映され、三島由紀夫がフランス語で語るシーン、ジム・ジャームッシュ監督の映画「ゴースト・ドッグ」の一部、映画「御法度」(1999年、大島渚監督)の一部、そして、最後に三島由紀夫の映画「憂国」(1966年)の一部が上映された。

 

 「葉隠」は1999年、ジム・ジャームッシュ監督の映画「ゴースト・ドッグ」(Ghost Dog The Way of the Samurai)で重要な役割を果たしている。

 

映画「ゴーストドッグ」から「葉隠」に関する一部 (フランス語)

https://youtu.be/aolm8abaotM

 

映画「御法度」の一部

https://youtu.be/5A-PdV6WDtc

 

映画「憂国」(閲覧注意)

https://youtu.be/qGtKpiYAy8E

 

 ペルティエさんは、武士道の中で認められてきた男色、すなわち同性愛、特に年長者の年少者「若衆」との関係についても言及した。


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 民間防衛組織として三島由紀夫が結成した組織「楯の会」も、民兵は見せかけで、侍の集団のようだとして紹介された。

 

 「自死の日本史 (講談社学術文庫、フランスでは1986年出版、日本語翻訳本は2011年出版)」の著者であるモーリス•パンゲ氏の言葉が引用され、三島由紀夫の割腹自殺について、心中、殉死などの可能性も示唆された。

三島由紀夫と一緒に割腹自殺した森田必勝さん(享年25歳、楯の会学生長)についても触れた。

 

 三島由紀夫の死は、日本では憲法改正を唱えたクーデターであり、三島由紀夫の危惧は「日本がアメリカの属国になり、日本文化の精神性を失うこと」だと私は捉えていたのだが、三島由紀夫の政治思想や日本の政治状況については言及が少なかった。小説についてもほとんど触れなかった。


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三島由紀夫 1925年(大正14年東京市四谷区出身。本名は平岡公威。41年、学習院中等科在学中に『花ざかりの森』を雑誌に発表、この時「三島由紀夫」のペンネームを初めて使う。47年東京大学卒業後、大蔵省に入省。48年に退職し、49年に発表した『仮面の告白』で新進作家として注目を集める。『禁色』『潮騒』『金閣寺』『鏡子の家』『豊饒の海』などの小説や『サド侯爵夫人』といった戯曲や歌舞伎、エッセイ、評論など数多くの作品を発表。また作家以外にも俳優、モデル、歌手など多方面で活躍した。1970年(昭和45年)11月25日、自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪問して自衛隊の決起を促す演説を行い、その後割腹自殺を遂げた。

 三島由紀夫の著作はフランス語に翻訳され、村上春樹に次いでフランスで2番目に読まれている日本人作家である。

 


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