パリ徒然草

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「柘榴の国」とエプスタイン事件都市伝説の類似 「豊饒の海 第三巻 暁の寺」を読んで③

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 作家、三島由紀夫だったら、エプスタイン事件をどう論じただろう、どう反応しただろう、と今、考えるのである。エプスタイン事件とは米大富豪、ジェフリー•エプスタインが自身の所有するカリブ海の島等を舞台に10代の少女らへの性的搾取で逮捕され、2019年7月裁判開始前に亡くなった事件である。


 というのも、三島の小説「豊穣の海第三巻 暁の寺」(第二部P185ー、1970年出版)の中で、ドイツ文学者の今西康が、別荘開きの祝宴に招かれ、客人たちの前で語る「柘榴の国」と、エプスタイン事件に関連した都市伝説は似ていると思うのだ。

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「ちかごろ『柘榴の国』ではどんなことが起こっているの?」

「あいかわらず人口はうまく調整されておりますよ。•••略•••

 美しい児は女も男も、子供のときから隔離されてしまいます。『愛される者の園』というところにね。そこの設備のいいことは、まあこの世の天国で、いつも人工太陽で適度の紫外線がふりそそぎ、みんな裸で暮して、水泳やら何やら、運動競技に力を入れ、花が咲き乱れ、小動物や鳥が放し飼いにされ、そういうところにいて栄養のよい食物を摂って、しかも毎週一回の体格検査で肥満を制御されますから、いよいよ美しくならざるをえませんね。但しそこでは本を読むことは絶対に禁止されています。読書は肉の美しさを何よりも損うから当然の措置ですね。
 ところが年ごろになりますとね、週一回この園から出されて、園の外の醜い人間たちの性的玩弄の対象にされはじめ、これが二、三年つづくと、殺されてしまうんです。美しい者は若いうちに殺してやるのが人間愛というものじゃありませんか。
 この殺し方に、国の芸術家のあらゆる独創性が発揮されるんです。というのは、国じゅういたるところに性的殺人の劇場があって、そこで肉体美の娘や肉体美の青年が、さまざまの役に扮してなぶり殺しにされるのです。若く美しいうちにむごたらしく殺された神話上歴史上のあらゆる人物が再現されるわけですが、もちろん創作物もたくさんありますよ。すばらしい官能的な衣装、すばらしい照明、すばらしい舞台装置、すばらしい音楽のなかで壮麗に殺されると、死にきらぬうちに大ぜいの観客に弄ばれ、死体は啖(く)われてしまふのが普通です。」

(「豊穣の海第三巻 暁の寺」P187ーP188)

  

 柘榴の国は、この小説の中ですら、小説内で実際に起きた出来事としてではなく、一人の癖のある登場人物が語る、夢物語、あり得ない幻想譚であるという形で表現されている。

 だが、事実は小説より奇なり、と言うべきか。「柘榴の国」は、エプスタイン事件が発覚した後に、You Tubeやネットで語られてきたディストピア世界に似通っていないだろうか。

 そのディストピア世界とは、大富豪、エプスタインが所有する島リトル・セント・ジェームズ島に集められた未成年は性的玩具にされた後、若返りの薬アドレノクロムを抽出するために苦痛を与えられ、悪魔崇拝の儀式の一環として劇場的に殺され食べられるというものだ。


【エプスタイン事件】すべてを手に入れた者たちの飽くなき欲望(コウの雑記帳)
https://kovlog.net/about-epstein-

You Tube【ゆっくり解説】後編
https://youtu.be/T0Z-CeL_1Ow



 実話を発端としているが、私が見た情報は都市伝説系のYou Tubeや個人のブログだったりもして、尾ひれがついた可能性十分にあるのだが、Yahoo!ニュースに書かれた故エプスタインさんとギレーヌ•マックスウェルさんのバージニア ジュフリーさんへの提案を読むと、あってほしくはないと願いながらも、胸騒ぎがしてしまう。


「あなたの産んだ子は私たちの子供になるんだけどね」ギレーヌは続けました。月2000万円の小遣いと素敵な家を買い与える契約を交わそうと言ってきました。そのかわり子供は彼らの物で好きにするとのこと。子供は彼らの手元から取り上げる権利はないこと」

Yahoo!ニュースより

 このようなことを聞くと、もし、この提案を万が一でも承諾した女性がいたとしたら、その後の子供たちが気になるのである。20代の裕福な日本人男性がタイの代理出産で少なくとも19人の子供をもうけていた問題もあった(エプスタイン事件とは何の関係もないが)から、世の中には、私の思いもよらないようなことをする人がいるものだ、という意味で、私の想像力が羽ばたくのであった。



 ギレーヌ•マクスウェルさんは、イギリス社交界の名士で、故ジェフリー・エプスタインの元恋人兼管財人であり、メディア王、ロバート•マクスウェル氏の娘である。2020年7月2日、性犯罪目的の未成年者誘拐・斡旋共謀などの容疑で逃走先のニューハンプシャー州で米連邦捜査局に逮捕され、昨日11月29日からマクスウェル被告の公判がマンハッタンの連邦裁判所で始まった。

"ギスレイン・マクスウェルの裁判が開始 – アメリカ・ウオッチ- Yuko's Blog" https://shimamyuko.wordpress.com/2021/11/29/%E3%82%AE%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%81%8C%E9%96%8B%E5%A7%8B/amp/


ギレーヌ・マクスウェル被告 公判初日 「ロリータエクスプレス」機長が証人に
https://www.mashupreporter.com/ghislaine-maxwell-trial-begins/?amp


"Le bouleversant témoignage de Jane contre Ghislaine Maxwell" https://www.parismatch.com/Actu/International/Le-bouleversant-temoignage-de-Jane-contre-Ghislaine-Maxwell-1773622



"【エプスタインの元恋人の裁判で大物の名前が出る可能性】/未成年者誘拐などの容疑で起訴されたマックスウェルの証人が裁判でエプスタインと交わした何千人もの人物と交わした電子メールが公開する可能性 | Total News World" http://totalnewsjp.com/2021/05/28/epstein-8/


エプスタイン被告の死後(自殺とされているが不審な点も多い)も数百人規模ともいわれる少女らへの深刻な性的虐待疑惑は、Netflixのドキュメンタリー『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』(Jeffrey Epstein: Filthy Rich)として、放映された。

 上記の記事にエプスタインさんとマックスウェルさんの二人は、クリントン大統領時代、ホワイトハウスのVIPだったともある。

 ウィキペディアによると、エプスタインさんとマクスウェルさんは、三極委員会と外交問題評議会の委員も務めた。この2つの組織は作家で講演家の宇野正美さんによると、アメリカ政府よりも、上位に位置している。

 エプスタインは、ニューヨーク、フロリダ、パリなどに住居を持っていて、その死後、パリのアパートは競売にかけられた。フランス語記事だが、下のサイトでパリの凱旋門に近いAvenue Foch (フォッシュ通り)の豪華なアパートの写真が見れる。このアパートの広さ、豪華さよ。

"En images : l'appartement parisien du financier américain Jeffrey Epstein mis en vente à plus de 11 millions d'euros" https://amp-leparticulier.lefigaro.fr/jcms/c_111571/immobilier/immobilier-de-luxe-l-appartement-parisien-du-financier-americain-jeffrey-epstein-mis-en-vente-a-plus-de-11-millions-d-euros-20211119


 それだけ巨大な権力を持った人間の法の前での平等と倫理が問われている


 この事件では、エプスタインのビジネスパートナーだった元モデルエージェントのフランス人、ジャン•リュック•ブリュネルさんも、未成年者を含む犠牲者に対するレイプや性的暴行、人身売買に加担したなどの容疑で捜査されている。さらに英国のアンドリュー王子から未成年の時に性的虐待を受けたとしてバージニア・ジュフリーさんが今年、米ニューヨーク州マンハッタンの連邦地裁に訴えた。



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 一方、三島由紀夫の小説「暁の寺」では、金銭的に成功し輪廻転生を研究する老齢の弁護士、本多は、同時にタイの王女への想いを募らせ、上流階級の人々が集まる宴を開き、18歳の彼女を本多の家に泊め、覗き穴から覗く。50年もの前の遺作で老齢の金銭的成功者による性的倒錯を扱ったのは、三島の先見性だろうか。

 タイ王室、イギリス王室、加害者、被害者が反転しているという違いはあるが、王室というテーマも、交差しているのも、奇妙な一致を感じる。

 
 小説のストーリーに戻ると、今西は弁護士の本多が彼の別荘で開いた上流階級の宴の席で「柘榴の国」の宗教観なども滔々と語る。だが、後の同じ別荘での祝宴で、今西はこう述べる。

「あの『柘榴の国』は滅びましたね。もうないのです」

(「豊穣の海第三巻 暁の寺」p343)

 それを聞いて弁護士の本多は思う。

かつて『柘榴の国』の名で呼ばれた「性の千年王国」が、今西の幻想の裡で滅びたとすれば、それは又、今西の幻想を憎んだ本多の心の裡でも亦滅んだのであった。.....彼は言葉で築き、言葉で滅ぼした。一度も現実のものにならなかったとはいえ、それはどこかに一旦は顕現したのち、残酷な恣意によって破壊されたのである。

(「豊穣の海第三巻 暁の寺」p343)

 


 エプスタイン事件を発端としたネット民たちの柘榴の国、私も妄想してまった幻想の国も滅んだのだろうか。それが貧富の格差への貧しい者たちの怒りによるただの妄想であったことを祈りつつ、裁判の行方を見守っている。

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【マクスウェルさんが生まれたパリ近郊、メゾン•ラフィットのベンチ。先日撮影。
ほかの写真は本文と関係ありません】




【エプスタイン事件についての参照記事】
"仏司法当局 エプスタイン関連捜査で元モデルエージェントを逮捕、アンドルー英王子に聴取の可能性 - mashup NY" https://www.mashupreporter.com/epstein-associate-jean-lic-brunelis-arrested-in-france/?amp

"性犯罪者エプスタインの元恋人、懲役80年を求刑される可能性も(Rolling Stone Japan) - Yahoo!ニュース" https://news.yahoo.co.jp/articles/605bbfd344d5cebd69b56eb13192891162cf5812?page=1

"道徳的破綻の怪物、ギレーヌは, 「エプスタインの影」の中で, その恐ろしさをさらけ出している Op-ed RT  翻訳:池田こみち 環境総合研究所顧問" http://eritokyo.jp/independent/Ghislaine-%20Maxwell-ike501b.htm


"Ghislaine Maxwell : la femme qui vaut un million de secrets" https://www.rtl.fr/actu/justice-faits-divers/ghislaine-maxwell-la-femme-qui-vaut-un-million-de-secrets-7900099215/amp



この感想文は8月に書いた感想文の続きです。

"世界解釈の物語 「豊饒の海 第三巻 暁の寺」を読んで② - パリ、新型コロナが世界を変えた" https://clairefr.hatenadiary.com/entry/2021/08/24/184011